「清掃員の正社員になっても、お給料はあまり期待できないのではないか」。転職を考えるとき、生活に直結する年収の問題は、誰にとっても一番の関心事だと思います。世間一般のイメージや、インターネットで目にする平均年収の数字だけを見ると、どうしても不安な気持ちが大きくなってしまうかもしれません。
正直に申し上げて、そのイメージは半分は事実です。残念ながら、業界全体として見れば、他の業種に比べて給与水準が高いとは言えない現状があります。厚生労働省が発表する統計データを見ても、清掃が含まれるサービスの職業の平均賃金は、全体の平均よりも低い水準にあることが示されています。
しかし、ここからが重要なのですが、そのイメージは残りの半分が、実は多くの人に知られていない「真実」で覆い隠されています。その真実とは、清掃業界の中には、年収300万円台の層がいる一方で、経験とスキルを積み重ね、年収500万円、600万円、あるいはそれ以上を稼ぐ人々も確実に存在する、ということです。
なぜ、同じ清掃という仕事でありながら、これほど大きな収入の差が生まれるのでしょうか。それは決して、個人の能力や努力だけの問題ではありません。実はそこには、あなたの給与明細を左右する、明確な「構造」が存在するのです。この記事が、その構造を理解し、あなたがより良い条件で働くための羅針盤となれば幸いです。
年収が決まる方程式 -「会社の事業戦略」×「個人の専門性」

では、清掃員の年収の差は、具体的に何によって生まれるのでしょうか。それは非常にシンプルに、大きく分けて2つの要素の「掛け算」で考えることができます。その2つの要素とは、「どの会社で働くか」という外的要因と、「自分自身が何を提供できるか」という内的要因です。この構造を理解することが、戦略的に年収を上げていくための第一歩となります。
変数1:会社の事業戦略(どこで働くか)
まず最も大きな影響を与えるのが、あなたが所属する会社の「事業戦略」、つまり会社がどのようなお客様を相手に、どのようなサービスを提供して利益を上げているか、という点です。例えば、個人のお宅を対象にしたハウスクリーニングと、最新鋭の設備が整った大規模なオフィスビルや病院の清掃とでは、求められる専門性も、サービスの価格も全く異なります。一般的に、より高い品質や専門性が求められる法人向けのサービス、特に衛生管理の基準が厳しい医療施設や食品工場、あるいは高い技術を要する特殊な清掃などを手掛けている会社は、高い収益を上げている傾向にあります。会社の利益は、社員の給与の源泉です。つまり、利益率の高い事業を展開している会社ほど、社員に高い給与を支払う余裕がある、というのは自然な理屈です。
変数2:個人の専門性(何ができるか)
もう一つの変数は、あなた自身の「専門性」です。これは、単に「清掃作業が速くて正確だ」ということだけを指すのではありません。例えば、国家資格である「ビルクリーニング技能士」や、建物の衛生環境を管理するための「建築物環境衛生管理技術者」といった資格を持っていることは、あなたの専門性を客観的に証明し、給与に直接反映されることの多い強力な武器になります。また、現場のチームをまとめるリーダーシップや、お客様と円滑な関係を築くコミュニケーション能力、さらには後輩を育てる指導力といった「目に見えないスキル」も、役職が上がるにつれて非常に重要となり、あなたの市場価値、ひいては年収を大きく引き上げていく要素となるのです。
【会社選び編】年収が高い清掃会社に共通する3つの特徴

年収を上げるための方程式が「会社の事業戦略」と「個人の専門性」の掛け算であるならば、まず最初に考えるべきは、分母となる「会社選び」です。個人の努力だけでは越えられない壁も、働く場所を変えることで、あっさりと乗り越えられる可能性があります。ここでは、比較的高い給与水準が期待できる清掃会社に共通する、3つの特徴について見ていきましょう。
特徴1:法人向け(BtoB)の専門領域に特化しているか
年収を考える上で、まず注目すべきは、その会社が主なお客様としているのが個人か、法人かという点です。もちろん個人向けサービスにも優良な会社はたくさんありますが、一般的に、オフィスビル、商業施設、ホテル、病院、工場といった法人向けの清掃サービスは、一契約あたりの規模が大きく、長期的な関係が築きやすいため、会社の経営が安定しやすい傾向にあります。特に、ただ清掃するだけでなく、建物の資産価値を守るためのメンテナンスや、法規制に基づいた衛生管理といった、高い専門性を持つサービスを提供している会社は、高い収益を上げる力を持っています。会社のホームページなどで、どのような建物の清掃実績があるかを確認することは、その会社の専門性や収益力を知る上で非常に有効な手段です。
特徴2:明確なキャリアパスと評価制度があるか
次に重要なのが、「何を頑張れば、どれくらいお給料が上がるのか」が社員にきちんと示されているかどうかです。例えば、「この資格を取得すれば、毎月◯円の資格手当が支給される」「現場リーダーになれば、役職手当として◯円が加算される」といった具体的な給与テーブルや、昇給の基準が明確にされている会社は、社員の頑張りを正当に評価しようという姿勢の表れです。こうした情報は、求人票の「待遇・福利厚生」の欄や、会社の採用サイトに記載されていることが多いので、応募の前に必ず確認しましょう。逆に、これらの情報が曖昧な場合は、個人の頑張りが給与に反映されにくい可能性があるため、注意が必要です。
特徴3:人材への投資を惜しまないか
会社の最も大切な資産は「人」です。社員一人ひとりの成長こそが会社の成長に繋がると考え、人材育成に積極的に投資している会社は、将来性が高いと言えます。具体的には、未経験者向けの研修制度が充実しているか、専門資格の取得にかかる費用を会社が支援してくれる制度があるか、といった点です。こうした制度は、社員が専門性を高め、結果として高い付加価値を生み出す人材に成長することを、会社が本気で応援している証拠です。目先の給与額だけでなく、こうした「自分への投資」を会社がどれだけしてくれるか、という視点を持つことが、5年後、10年後のあなたの年収を大きく左右する重要なポイントになります。
【個人編】あなたの市場価値を上げるための3つのスキル
働く会社を選ぶことと同時に、あなた自身がスキルアップをすることも、年収を上げるための重要な要素です。これまでの経験や年齢に関わらず、あなたの「市場価値」を高めることによって、より多くの収入を得る可能性が広がります。ここでは、すぐに始められる3つのスキルアップ方法をご紹介します。
スキル1:国家資格を取得する
清掃業に関する様々な資格の中でも、特に年収アップに繋がりやすいのが、国家資格です。
「ビルクリーニング技能士」は、ビルの清掃に関する技能を証明する資格で、清掃の実務経験がある程度必要ですが、取得することで、清掃に関する専門知識と技術を持っていることを客観的に証明できます。また、「建築物環境衛生管理技術者」(通称:ビル管)は、建物の空気環境や給排水設備、衛生的な環境を維持管理するための専門家であることを証明する資格です。合格率は比較的低いですが、取得すれば、業務の幅が広がり、管理職への道が開ける可能性もあります。
これらの資格を取得することで、清掃のプロフェッショナルとしての信頼性を高め、給与アップやキャリアアップに繋げることができます。
スキル2:マネジメント能力を磨く
現場でリーダーやマネージャーを目指すのであれば、チームをまとめ、目標を達成するためのマネジメント能力は不可欠です。
具体的には、
・部下の指導・育成
・業務の効率化
・問題解決能力
・コミュニケーション能力
といったものが挙げられます。
日々の業務の中で、リーダーシップを発揮し、周りの人たちを巻き込みながら、目標を達成していく経験を重ねましょう。時には、積極的に上司に意見を述べ、自分の考えを伝えることも大切です。また、部下の育成を通して、相手にわかりやすく伝える能力や、モチベーションを維持させるためのスキルも磨くことができます。
これらの能力は、必ずあなたの評価を上げ、収入アップに繋がるはずです。
スキル3:特定分野の専門知識を深める
清掃に関する知識は奥深く、専門性を高めることで、あなたの市場価値はさらに向上します。例えば、特殊な素材の知識を深め、その素材に最適な清掃方法を提案できるようになれば、お客様からの信頼も厚くなり、高い評価に繋がるでしょう。
近年、清掃業界でも、デジタル技術の活用が進んでいます。清掃ロボットの操作スキルや、清掃管理システムの活用スキルを身につけることで、業務効率化に貢献し、会社からの評価も高まるでしょう。また、感染症対策に関する知識を深め、安全で衛生的な環境を提供する能力を身につけることも、今の時代には不可欠なスキルです。
このように、専門知識を深めることで、あなたならではの強みを生み出し、唯一無二の存在になることができるのです。
実例で見る!年収UPキャリアモデル
では、実際に清掃業で働くとして、どのようなキャリアパスを歩み、どのくらいの年収を目指せるのでしょうか。あくまで一例ですが、具体的なキャリアモデルと年収の目安をご紹介します。
例:未経験からスタートし、現場リーダー、マネージャーへ
1年目:現場スタッフ
入社後、まずは清掃の基本的な技術や知識を学びます。先輩社員の指導を受けながら、実践を通してスキルを磨いていきます。並行して、基本的な資格取得を目指します。
年収:300万円~350万円
3年目:現場リーダー
現場での経験を積み、リーダーとしてチームをまとめます。
清掃の技術指導や、新人教育なども行います。
現場を効率的に運営し、お客様からの信頼を得ることが目標です。
年収:380万円~450万円
5年目~:マネージャー/専門職
現場リーダーとしての経験を活かし、複数の現場を管理するマネージャーへとキャリアアップを目指します。
スタッフの勤怠管理、顧客対応、業務改善など、幅広い業務をこなします。
また、特定の分野の専門知識を活かして、専門職として活躍することも可能です。
(例:営業、人事、品質管理、技術指導など)
年収:500万円以上
もちろん、このモデルケースはあくまで一例であり、個人のスキルや経験、会社の規模や業績によって、年収は大きく変動します。
例えば、清掃に関連する専門資格を取得したり、マネジメント能力を磨くことで、より高い年収を目指すことも可能です。また、経験を積んで独立し、起業するという選択肢もあります。
大切なのは、自分自身のキャリアプランを描き、目標に向かって努力し続けることです。
より詳しい情報や、具体的な求人案件については、こちらをご覧ください。
https://www.clean-rise.jp/recruit
まとめ - 年収UPの鍵は、正しい「企業選び」から始まる
この記事を通して、「清掃員の年収は低い」という一般的なイメージが、必ずしも全てではないということがお分かりいただけたかと思います。業界の平均値だけを見て諦めてしまうのではなく、その内側にある「構造」を理解することが何よりも大切です。
清掃員の年収は、「会社の事業戦略」という土台の上に、「個人の専門性」という柱を立てることで決まります。どれだけ個人の努力で素晴らしい柱を建てようとしても、土台が不安定であれば、その高さには限界が訪れてしまいます。だからこそ、これから清掃業界でキャリアを築き、着実に年収を上げていきたいと考えるならば、最初のステップである「企業選び」が極めて重要になるのです。
法人向けの専門的なサービスを提供し、明確な評価制度を持ち、そして何よりも社員の成長を会社の成長と捉えて人材に投資してくれる。そうした企業を、あなた自身の目で冷静に見極めること。それが、5年後、10年後のあなたの給与明細を、そしてあなたの人生の豊かさを左右する、最も確実な一歩となります。
特別な経験やスキルがなくても、誰もがスタートラインに立てるのがこの業界の魅力です。そして、あなたの誠実な努力を、きちんと評価し、応えてくれる会社も確実に存在します。この記事が、あなたが未来への確かな一歩を踏み出すための、小さなきっかけとなることを心から願っています。
もし、この記事を読んで、ご自身のキャリアについて誰かに相談してみたいと感じたら、専門家の意見を聞いてみるのも一つの良い方法です。

