プロは一体何を使っている?ダクト清掃の道具を徹底解説|DIYの限界と専門業者に依頼するメリット

厨房の換気フードやダクトにこびりついた、あの頑固な油汚れ。それを目の当たりにして、「専門業者に頼む前に、自分で少しでも掃除できないだろうか」「一体どんな道具を使えば、この汚れは落ちるんだろう?」と考えたご経験は、きっとあるのではないでしょうか。できることなら費用を抑えたい、というお気持ちは、経営に携わる方であれば至極当然のことだと思います。


しかし、厨房のダクト清掃は、ご家庭のキッチンにある換気扇の掃除とは、少し事情が異なります。構造は複雑で、汚れは何年もの間に蓄積された、非常に手強いものがほとんどです。安全に、そして確実に行うためには、正しい知識と適切な道具が欠かせません。


では、一体どこまでが自分で挑戦できる範囲で、どこからが専門家の領域なのでしょうか。そして、プロの技術者たちは、どのような特殊な道具を駆使して、あの見えないダクトの奥まで綺麗にしているのでしょうか。


そうした疑問をお持ちになること自体が、厨房の安全に対して真剣に向き合っている証拠です。ここでは、そんなあなたの疑問に、専門家の視点から一つひとつ丁寧にお答えしていきます。読み終える頃には、あなたのお店にとって最も安全で、賢明な選択肢が何なのか、はっきりと見えているはずです。




手の届く範囲から。自分で揃えられるダクト清掃の基本道具

「自分で挑戦してみよう」と決めた場合、まず大切なのは「安全に作業できる範囲」を見極めることです。結論から言うと、ご自身で清掃できるのは、基本的に「ダクトの入口まで」と考えてください。具体的には、換気フードの表面や、取り外しが可能なフィルターといった、直接目で見えて、安定した足場で手が届く範囲に限られます。決して、ダクトの内部に手や工具を深く差し込むようなことはしないでください。

その上で、手の届く範囲の清掃に役立つ基本的な道具をご紹介します。



汚れを物理的に剥がし、かき出す道具

長年蓄積した油汚れは、カチカチに固まっていることがあります。まずは、こうした頑固な汚れを物理的に取り除く道具が必要です。


スクレーパー(ヘラ): 分厚い油の層を、面白いように削ぎ落とすことができます。ただし、ステンレス製のフードなどを傷つけないよう、まずはプラスチック製のものから試してみるのが良いでしょう。


ブラシ類: 形状や硬さの異なるブラシをいくつか用意しておくと、様々な場所に対応できて便利です。金網部分には金属製のブラシ、細かい溝には使い古しの歯ブラシといった具合に使い分けます。



汚れを化学の力で溶かす洗剤

物理的に取り除けない油汚れは、化学の力を借りて溶かしていきます。


業務用アルカリ性洗剤: キッチンの油汚れは「酸性」の性質を持っています。そのため、反対の性質を持つ「アルカリ性」の洗剤を使うことで、汚れが中和され、効率的に分解することができます。市販の家庭用洗剤よりも強力なものが多いため、使用方法や希釈(きしゃく)の割合を必ず守ってください。



何よりも重要。自分自身を守るための保護具

これが最も重要です。強力な洗剤や、剥がれ落ちてくる油汚れから、ご自身の体を守るために、以下の保護具は必ず着用してください。


厚手のゴム手袋: 強アルカリ性の洗剤が直接肌に触れると、ひどい手荒れや化学やけどを引き起こす可能性があります。


保護メガネ: 洗剤が目に入るのは非常に危険です。作業中に液体が跳ねたり、上から汚れが落ちてきたりすることは頻繁にあります。ゴーグルタイプのものがおすすめです。


マスク: 洗剤の強い臭いや蒸気を吸い込むのを防ぎます。


これらの道具を揃え、換気を十分に行い、火気は絶対に近づけないという基本ルールを守れば、フード周りの美観はかなり改善されるはずです。しかし、これはあくまで「見える範囲」の話に過ぎない、ということも忘れないでください。




汚れを根こそぎ落とす。プロの現場で活躍する特殊な道具たち

ご自身でできる範囲の清掃と、専門業者が行う清掃。その決定的な違いは、「見えないダクトの内部を、いかにして綺麗にするか」という点に集約されます。プロの技術者たちは、一般家庭にはない特殊な専門機材を駆使することで、この難題を解決しています。ここでは、その代表的な道具をいくつかご紹介しましょう。



ダクト内部を正確に「見る」ための道具

まず、プロは作業前にダクトの内部を正確に把握することから始めます。


ファイバースコープ(工業用内視鏡): 細長いケーブルの先端に小型カメラが付いた、まさにお腹の中を見る胃カメラのような道具です。これをダクト内部に挿入し、モニターで中の様子をリアルタイムで確認します。これにより、「どこに、どのような性質の汚れが、どれくらい溜まっているのか」「ダクトはどこで曲がっているのか」といった情報を正確に把握し、最も効果的な清掃プランを立てることができるのです。



頑固な汚れを徹底的に「剥がす」ための道具

ダクト内部の状況を把握したら、いよいよ汚れとの戦いです。


高圧洗浄機と専用ノズル: 家庭用のものとは比較にならないほどの強力な水圧で、ダクト内壁にこびりついた油の塊を吹き飛ばします。ただ水を噴射するだけでなく、先端のノズルが回転して360度全方位に水を噴射するなど、ダクト清掃に特化した仕組みになっています。


パワースピンブラシ(業務用回転ブラシ): 長いシャフトの先端に、硬さの異なる様々なナイロンブラシやワイヤーブラシを取り付け、電動モーターで高速回転させながらダクト内部を磨き上げていきます。ダクトの形状に合わせてシャフトを連結させ、数十メートル奥まで清掃することも可能です。



剥がした汚れを確実に「回収する」ための道具

剥がした汚れをそのままにしては、意味がありません。


業務用ウェットバキューム(汚水回収機): 高圧洗浄によって発生した大量の汚水や、ブラシで削り取った油の塊を、強力な吸引力で回収します。この工程を怠ると、剥がれた汚れがダクトの低い部分に溜まってしまい、かえって詰まりを悪化させる原因にもなりかねません。


これらの専門機材は、それぞれが非常に高価であるだけでなく、その性能を最大限に引き出すためには、熟練した技術と経験が不可欠です。使い方を誤れば、厨房を水浸しにしてしまったり、ダクトそのものを破損させてしまったりする危険性も伴います。プロの仕事とは、まさにこうした専門道具を巧みに操り、安全を確保しながら、見えない場所の課題を解決することにあるのです。




なぜプロへの依頼が推奨されるのか?DIYに潜む3つの重大なリスク

プロが使う専門的な道具の数々を見て、「やはり自分で行うのは難しそうだ」と感じられたかもしれません。費用を少しでも抑えたいという気持ちから始めたDIY(自分でやってみること)が、結果的に「安物買いの銭失い」どころか、取り返しのつかない事態を招いてしまう可能性も、残念ながらゼロではないのです。

ここでは、専門家への依頼がなぜ強く推奨されるのか、その理由となるDIYに潜む3つの重大なリスクについて、具体的にお話しします。



1. 火災リスクをかえって高めてしまう危険性

良かれと思って行った清掃が、実は火災の危険性を高めてしまう、という皮肉なケースがあります。例えば、ブラシなどで中途半端に汚れを削り取った結果、剥がれかかった油汚れがダクト内に散乱することがあります。こうした薄い油の膜は、塊の状態よりも表面積が大きくなるため、かえって引火しやすくなるのです。また、ダクトの奥へ奥へと汚れを押し込んでしまい、それが熱源の近くに堆積することで、発火点に達しやすくなるというリスクも考えられます。安全のために始めたはずの清掃が、最悪の事態の引き金になってしまうことだけは、絶対に避けなければなりません。



2. 厨房設備を破損させてしまう、手痛い経済的損失

ダクトの内部は、単なる空洞の管ではありません。場所によっては、排気ファンを動かすための電気配線が通っていたり、火災を感知した際に消火剤を噴射するノズルが設置されていたりします。こうした設備の構造に関する知識がないまま、無理に硬いブラシを差し込んだり、高圧な水をかけたりすると、これらの重要な機能を破損させてしまう恐れがあります。そうなれば、ダクト清掃の費用とは比較にならないほどの、高額な修理費用が発生することにもなりかねません。



3. 作業者の転落や健康被害という、最も避けたい事態

何よりも優先すべきは、作業を行うあなた自身の安全です。ダクト清掃は、多くの場合、高所での作業や、狭く暗い場所で無理な体勢を取ることを強いられます。脚立からの転落事故は、プロの現場でさえ細心の注意が払われる重大なリスクの一つです。また、業務用洗剤の強力な成分を吸い込んでしまったり、それが目に入ってしまったりすれば、深刻な健康被害につながる可能性もあります。自分自身や、お店の大切なスタッフを危険に晒してまで行うべき作業ではない、ということを心に留めておく必要があります。

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まとめ:見えない場所だからこそ専門家の知識と道具を。最適な清掃方法の選び方

今回は、ダクト清掃に使われる道具に焦点を当て、ご自身で揃えられる基本的なものから、専門業者が現場で駆使する特殊な機材までをご紹介してきました。


換気フードの表面やフィルターなど、目に見える範囲の汚れをご自身の力で綺麗にすることは、厨房の衛生環境を保つ上で、とても価値のあることです。その意欲や行動は、決して無駄ではありません。しかし、ダクト清掃の最も重要な目的である「火災リスクの低減」という観点から見ると、残念ながらそれだけでは不十分と言わざるを得ません。


本当の危険は、普段は見ることのできない、暗く曲がりくねったダクトの奥深くに潜んでいます。その危険を根本から取り除くためには、やはり内部の状況を正確に診断する知識と、固着した油汚れを安全に除去するための適切な道具、そして何よりも、それらを使いこなす技術が不可欠です。


DIYに挑戦する際には、今回お話ししたような様々なリスクも十分に理解した上で、慎重な判断が求められます。お店の安全と、作業を行うご自身やスタッフの安全。そのどちらも、決して軽んじることはできません。


もし少しでも不安を感じるのであれば、無理せず専門家の力を借りるのが、結果として最も賢明で確実な選択肢です。まずは、あなたのお店のダクトが今どのような状態にあるのか、プロの目で診断してもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。

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